2017/05/26

''Contribution about NHM Ueno exhibition'' posted X KUNZO


オーウェンが夢の跡 〜 大英自然史博物館

上野の国立科学博物館で611()まで開かれている「大英自然史博物館展」。英国ファンの方も、科学ファンの方も、足を運ばれた方が多いのではないでしょうか。

ラッセル・スクウェアの本館から独立し、サウス・ケンジントンに開館するまでには、ある男の熱意と執念がありました。その男とは、当時大英博物館の自然史部門の責任者だったリチャード・オーウェン(Richard Owen 1804-92)。ランカスターの商人の子として生まれ、はじめ外科医を目指すも、転向して比較解剖学者となった彼は、標本や化石の収蔵スペースが本館を圧迫してきたのを目の当たりにし、新しく自然史博物館を建設すべきと主張します。


そこから1881年の開館まで約25年間、オーウェンはこの一大事業に心血を注ぐわけですが、これが純粋な科学の進歩への使命感から来たものとは言えないところが玉にキズ。というのも、彼は脊椎動物の研究については比類なき存在でしたが、専門外の領域でもその名声を維持しようとするが余り、剽窃までやってのける俗物として、生前から評判の悪い人物でした。自然史博物館の事業も、英国随一のサイエンティストたらんと欲したオーウェンの野心の賜物でもあったのでしょう。


そんな因果か、今日、彼の事跡で人々に記憶されているのはわずか二つほど。一つは、“dinosaur”という単語を生み出したこと(そう、「恐竜」はイギリス生まれの概念でもあります)。そして、ダーウィンの進化論をボロクソに批判したこと。そして皮肉なことに、自然史博物館の中央ホールを睥睨するのは、生みの親たるオーウェンではなく、その不倶戴天の敵であったはずのダーウィンの大理石像なのです。


そんな歴史の1ページを振り返りながら、展示されている標本群を眺めると、なんとも言えない無常観が去来します。まさにオーウェンが夢の跡。上野の特別展も閉幕まで1ヶ月を切りました。もし見逃した方いらしても大丈夫です。ロンドンを訪れた際、ちょっと足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?